「黄金の馬」日本での出版にあたり
1513年バスコ・ヌニェス・デ・バルボアにより「マール・デル・スール/南海/太平洋」が発見されたことで、スペイン人征服者はパナマが発見されたばかりのヌエボ・ムンド(新世界、後にアメリカと呼ばれるようになる)の中で最も幅の狭い部分であることに気付かされます。それ以来スペイン人は、広大な南米直轄領地に迅速に到達でき、アンデス地域にある資源豊かな鉱山から堀出された金銀をパナマ地峡を通じスペインへと運ぶルートの建設に着手することになります。最初に建設されたのは石畳の道で、後日これに河川を利用するルートが加わり、19世紀中頃にはパナマ鉄道の建設が着工されるまでになります。パナマ鉄道は両洋を初めて繋ぐと共に、それから半世紀後にパナマ運河の建設により完遂するトランスオーシャン・ルートの歴史に於ける最初の偉業であると言えます。
「黄金の馬」は小説という形を取りながらこの鉄道の建設、それを考案した米国の実業家達、その建設の為にあらゆる国々からパナマに来た労働者、彼らが遭遇した悲劇、裏切り、冒険、そしてロマンスについて語り、続けて鉄道完成後に主に米国から何千もの山師的男たちがパナマを通じカリフォルニアに金を探しに行くことになった結果、それまでは人口僅か1万人足らずの静かな村であったパナマ市が一変することになります。
作者はこの小説が日本で発行されることが可能となったことについて、大きな感謝の念を一生忘れません。「黄金の馬」をスペイン語から日本語に翻訳するという大変な作業を行って頂いた中川晋氏、元駐パ日本国大使であり、三冬社に「黄金の馬」の出版を引き受けて頂いた下荒地修二氏、日本では誰も知らないパナマ人作家の小説を発行するという難しい決断をして頂いた佐藤公彦氏、柄沢佳治氏、私のパートナーであり友人。日本での出版が実現するのも彼等の弛まない尽力のお蔭であり、それなくして今回の出版が実現することはなかったでしょう。
この小説はもともとスペインで出版され、ラ米各国ではバルセロナのEdiciones B社を通じ出版されました。日本の読者がこの小説を楽しんで読んで頂けることを期待します。又読者の一部の方々が私の他の小説もいつか読んで頂ければと思います。